裏庭散歩 3月 狼と鹿
私の目の前に、切り抜いた新聞記事があります。3月5日の、APによるものです。内容は、ニューイングランドで絶滅したと考えられていた灰色狼が再び出現したというものです。場所はマサチューセッツ。最後にこの狼が見られたのは、1993年メイン州のはるか上、つまり、カナダとの国境に近い場所でした。マサチューセッツ州で最後にこの狼がみられたのは、1840年だったそうです。つまり、200年弱前ということになります。
なぜ、という疑問がおこっているのは当然です。違法に飼われていた狼が逃げ出したのではないかという疑いもあったそうですが、今回はそうではないそうです。カナダから南に狼が下りてきたとう説が有力とのこと。
ぱらぱらと地元の歴史の本とめくります。
入植してきたころは、このニューイングランドは狼とマウンテンライオン(ジャガー、ピューマという名前もありますが、この地ではマウンテンライオンの名前が一般的です。)がたくさんいました。地は原生林に覆われ、ムース(へらじか)やビーバー、鹿が多くそれらの動物と共生していました。ところが、入植者が畑や牧場を作ったためにその生態系が変わります。
入植者にとって、家畜の羊や山羊、牛は生活の糧。それらを育てるためには土地が必要です。牧草地や畑を作るために原生林を切り倒しました。開墾は、ニューイングランドの奥にまで及びました。
狼やマウンテンライオンも、生きるためには手段を選ぶことはできません。原生林がなくなったため、鹿が減ります。ムースが減ります。自分たちの糧が乏しくなったため、入植者の家畜を殺して食べざるを得ません。それに畏怖を感じた入植者たちは、狼狩をすることがありました。
このNEJ Connectionがある土地にもそれはありました。大きな山があります。モナドック山といいます。その頂上付近まで原生林は切り倒され牧場にされたそうです。それでも、狼やマウンテンライオンはいました。家畜を殺して生き延びていたのです。
あるとき、おおがかりな獣狩りがありました。家畜を殺され怒った農民が山に火を放ったのです。いぶしだされた獣たちは殺され、それ以来、このモナドック地方には狼はいなくなりました。
それでも、現在、時折地元の人々は「マウンテンライオンをみた。」と言います。もしかすると、カナダが隣にあるのでそこから下ってくるのかもしれません。ここには、コヨーテもいます。またボブキャット(山猫)もいます。狼やマウンテンライオンが戻ってきてもおかしくはないでしょう。ただ、やはり、一旦崩れた生態系が元通りになるのはとても難しいと思います。州政府は自然保護に力をあげているようですが、どこまで元通りになるかはわかりません。
鹿が姿をみせました。下の写真をみるとわかるように、雄の鹿は群れをなして大抵5~6頭で行動します。雌は、子供と一緒に行動します。昔は、鹿の一番の捕食動物は、狼やマウンテンライオンでした。今では、一番の敵は、人間と犬です。コヨーテやボブキャットに殺されることもありますが、銃を持った人間が一番の敵。
田舎では鹿の捕獲は期間と捕獲数を決めて行われます。また、時折村里におりてくる鹿は犬に噛まれて死ぬことがあります。困るのは、町の鹿です。町の中では人間は銃を使ってハンティングをすることはできません。そのため、意外なほど、町の近くに鹿がいるのです。鹿は可愛いからどんどん増えればいいじゃないかという意見は、生態系を無視したものです。鹿も適正な数におさえなければ、他の生態系が狂ってしまうのです。それを、昔は、狼やマウンテンライオンが果たしてくれていました。
どこまで自然が鹿の数を制限するのだろうと思いながら、目の前に現れた6頭の鹿を眺めました。鹿は、しゃくやくの葉を食べおわると、深い雪に足をとられながら山の中に帰っていきました。
(3月14日 2008年)

(しゃくやくの葉を食べる鹿たち)